その時、私は、居なかった。
あったのは、溢れるばかりの喜び、
優しさ、嬉しさ。
そして、麗しい光、楽しい音、揺らぎ。

私は居なかったが、
世界は、何も変わらずに在った。
でも、私は居なかった。

世界は、美しい光の渦に煌めいていた。
雑踏は、優しい音を奏でていた。
歩道のアスファルトの水たまりは、
不思議な渦の光をゆるやかに回していた。
風は、芳しい香りを運んでいた。
夜風の向こう側には、
見えない幾百万の星々がささやいていた。

でも、私は居ない。
どこにも居ない。
あるのは、
素晴らしい気分。
素晴らしい広がり。
私は、そのとき、
どこまでも両手を大きく大きく広げて、
宇宙に溶けて、宇宙と一つになっていた。

宇宙そのものになっていた。
音も光も星もなにもかも。
”私”になっていた。