それはとても不思議な感覚。
とても、優しい気分。
私は、道行く人に、すれ違う人に、
ひとりひとりに、心の中で、ほほ笑みかける。
だって、だれもみんな懐かしい知り合いに思えるから。
老いも若きも、男も女も。日本人も、外国人も。

ああ、私はあなたをとても良く知っている。
すれ違う、あなたも、あなたも、
そして、誰かと待ち合わせをしているあなたも。

もちろん、みんな初めて会うのだけれど、
でも小さい時から知っている。
あなたの癖も、性格も、なにもかも全部。

私はあなたの幼稚園の時からの友達のようだ。
幼稚園の園庭での、泣きべその顔も思い出せる。
得意になっている、元気な笑顔もはっきり思い出せる。

私は、あなたを良く知っている。
でも、今のあなたは誰だか知らない。
威厳のある政治家かもしれない。社長かもしれない。
デザイナーかもしれない。退職しているのかもしれない。
地球の裏から来た人かもしれない。
それは、知らない。全然知らない。

でも、私は、あなたの「本当のあなた」を知っている。
幼い時からずっと知っている。
だからあなたに会えて、とても懐かしい。
だからこんなに嬉しい。

あなたの、人生のシワが刻まれた顔の向こうに、
あなたが、無邪気に遊んでいた幼児の顔が蘇る。
だから、思わずほほ笑む。
りっぱな大人になったね。
よかったね。生きているんだね。長く生きているんだね。
懐かしいねぇ。
みんな、みんな、嬉しいねぇ。

それは、とても不思議な感覚。
優しい気分が、泉のように。
泉のように、湧き出て溢れる。

宝彩有菜