宝彩有菜の「宇宙の詩」   

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 【006】 自分勝手な玩具  

生まれてすぐに、玩具をもらった。

マインドという、コンピュータだ。
すぐに、使い方を覚えた。

その玩具は、教えると何でも覚えた。
すぐに、なんでも覚えて、さらに工夫して、
そのうち、何でも出来るようになった。

いちいちチェックしなくても、
大方のことが、自動運転でできるようになった。

そのうち、言葉も覚えた。

覚えた言葉を使って、まるで、私そっくりに、
言葉で、ものを考えることができるようになった。

私よりは、随分たどたどしいのだけど、
まぁ、充分、役には立つ。

私が休んでいても、日常のことは自動的に、
考えが進むようになった。優秀だし、便利なものだ。

・・・と、ふと気がつくと、
私は、この玩具が勝手におしゃべりをし続けるのを、
止められなくなっていた。

止め方が、わからない。
止められない。どうしよう。

私は、下僕に乗っ取られてしまったのだ。
そして、いつしか、乗っ取られたことさえ忘れてしまった。
そして、暗いトンネルへ、
列車はまっしぐらに突っ込んで行ったのだ。

暗闇の中を、爆走しているうちに、
何が「自分」で、何が楽しいのかさえわからなくなってきた。

このままでは、息たえだえになる気がした。
とにかく、この暗闇の中の爆走を止めなければ・・・

もがきながら、もがきながら、手探りで、なんとか、
私は優秀な操縦士から、操縦桿を取り戻したのだ。

その操縦桿を手前に引くと、暗いトンネルを抜けて、
ジェット機は輝く大空に舞い上がって行った。

あああ、私は、その時、
「人生は素晴らしい。生きていて良かった」と思った。

副操縦士は、得意気に、
「ねっ、ここまで来れたのは私のお陰ですよ」
「ふん、偉そうに。しかし、まぁ、ある意味、そうかもな。あはははは」
「あはははは」

眼下には、人生の大パノラマが、
きらきらと輝きながら、どこまでも、どこまでも、
雄大に広がっている。


宝彩有菜


© Alina Hosai  ,2009 (All right reserved )

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